先日、ある居酒屋オーナーの方からこんな相談を受けました。
「ジョイマンさん、お客さんは入っているんです。売上も悪くない。なのに月末になると通帳の残高がヒヤヒヤで……何がいけないんでしょうか」
この感覚、実は多くの飲食店経営者の方が経験されています。忙しく働いて売上は立っているのに、気づいたらお金が手元に残っていない。コロナ禍で苦しくなったお店の多くも、じつは「売上が落ちたから潰れた」のではなく、「もともと資金に余裕がなかったところに売上減が重なって追い詰められた」という実態がありました。
今回は、資金繰りが苦しくなってきた飲食店の経営者の方に向けて、「まず何からやるべきか」を順番に整理してお伝えします。焦って動くと判断を誤ることが多いので、ぜひ冷静に読んでみてください。

Q. そもそもなぜ飲食店は資金繰りが苦しくなりやすいのか?
飲食店は構造上、資金繰りが悪化しやすい業態です。理由はいくつかあります。
まず、原価・人件費・家賃という3大コストが毎月固定的にかかり続けること。売上がゼロでも出ていくお金は止まりません。飲食店の利益構造の目安として「3・3・3・1」という考え方があります。原価30%・人件費30%・地代家賃10%で、残った10%が営業利益というイメージです。ところが、この比率をきちんとコントロールできていないお店が本当に多い。
次に、安売りや割引での集客に慣れてしまっているケース。「お客さんを集めなきゃ」という焦りから、ランチを安くしたり、クーポンを乱発したりしていると、確かにお客さんは来るけど利益は削れていく一方です。忙しいのに手元に残らない、という状態がまさにこれ。
そして、個人事業のままで事業と生活費が同じ財布になっているケースも要注意です。月々何を使っているか把握できていないと、どんなに売上が立っても「なんとなく使えてしまう」構造になってしまいます。
Q. 資金繰りが苦しい時、まず最初に何をすべきか?
最初にやることは、「今の数字を正確に把握する」です。これが一番大事で、しかも多くの方が後回しにしがちです。
私がクライアントに必ずお伝えしているのが「翌月5日ルール」というものです。前の月の売上・利益・経費を、翌月5日までには必ず把握する。当たり前に聞こえますが、2〜3ヶ月遅れて数字を見ているお店は驚くほど多い。気づいた時にはもう手遅れ、ということになりかねません。
数字を把握する時には、売上をひとかたまりで見るのをやめてください。売上は「客単価×客数×来店頻度」に分解できます。どこが崩れているのか、どこを手当てすれば利益が残るのかは、分解してみないと見えてこないんですよ。
把握したら次に確認するのは、今の価格設定です。「この値段で売って、ちゃんと粗利が取れているか?」という点です。原価と人件費を合わせた時点で赤字になっているメニューが1品でもあれば、そこから見直さないといけません。
Q. 値上げや値下げをする前にやることは何か?
資金繰りが苦しくなると、「値上げすべきか」「いや、今は安くして客数を増やすべきか」と悩む方が多い。ただ、どちらも正解ではないことが多いです。
値上げの前にまずやるべきは、「売価を維持したまま原価率を下げる工夫」です。たとえば、食材の仕入れ先を見直す、一品あたりの分量を調整する、仕込みを効率化して人件費を抑える、といった地道な取り組みです。
値下げはもってのほかです。「安売り・値引きセールで集客する」という考え方は、一時的に売上は立っても利益をどんどん削ります。資金繰りが苦しい時に値引き集客をすると、さらに苦しくなるという悪循環に入ります。
では値上げはどうか。全メニューを一律に値上げするのは避けた方がいい。やるなら、「集客商品(入口の手頃な価格)」と「収益商品(しっかり利益が取れる商品)」を分けて、収益商品だけ価格を上げる設計にするのが正解です。
実際に、私がサポートした飲食店の方で、1,800円で売れなかった自家製ドレッシングを5,000円に値上げしたところ、逆に売れるようになって全国の雑誌や新聞に取り上げられた事例があります。価格が高いほど「何か特別なものなのかも」と感じてもらえるケースがあるんですよ。価格設定は思い込みで決めるのではなく、戦略的に考えることが大切です。
Q. 融資や借入れは早めに動くべきか?
結論から言います。融資の相談は「お金が必要になってから」では遅い。余裕がある「今」のうちに動いてください。
日本政策金融公庫(通称:公庫)の担当者に相談するのが、飲食店経営者にとって最もハードルが低く使いやすい選択肢のひとつです。業績が安定しているうちに顔を繋いでおくと、いざという時の審査通過率がまったく違います。「困ってから相談に来た人」と「普段から数字を把握して経営している人」では、信頼度が全然違う。
ただし、融資はあくまで「時間を買う」ための手段です。借りたお金で一時的に資金繰りをしのいだとしても、利益が出ない構造のままなら返済が重なるだけ。融資と同時進行で、利益が出る体質への改善を進めることが前提です。
Q. 法人化は資金繰り改善に効果があるのか?
個人事業のまま経営している方に特にお伝えしたいのが、「法人化」の話です。
個人事業主の状態では、事業のお金と生活費が同じ財布(ポケットが1つ)になってしまいます。売上が入ってきたら、事業に必要な分も生活費に使う分も一緒に管理しなければならない。これだと「どこにお金が消えているか」が見えにくくなるし、気づいたら手元に残っていない、という状態が起きやすい。
法人化すると、会社の口座と個人の口座が分かれます(ポケットが2つになる)。会社として利益を積み上げておくことで、資金繰りの余裕が生まれますし、税務上のメリットも大きい。さらに、会社に累計利益を残しておけば、将来自分が引退した後に会社から給与を払い出す「自分年金」的な使い方もできるようになります。
法人化を「面倒くさそう」と後回しにしている方は、一度専門家に相談してみてください。タイミングが遅くなるほど機会損失が積み上がっていくんですよ。
まとめ:資金繰りの改善は「仕組みを変える」ことから始まる
資金繰りが苦しい時、多くの経営者の方は「もっと集客しなきゃ」「もっと売上を上げなきゃ」と考えます。でも実は、売上を増やす前に「今の仕組みで利益が出るか」を確認することの方がずっと重要です。
まず数字を正確に把握する(翌月5日ルール)。次に価格設定と原価率を見直す。安売りをやめて収益商品の価格を整える。融資は余裕があるうちに動く。そして法人化で事業と生活費を分ける。
この順番で着実に手を打っていくことが、「忙しいのにお金が残らない」状態から抜け出す道筋です。
私、ハワードジョイマンは中小企業診断士として20年以上、全国1,000店舗以上の飲食店・美容室の経営支援をしてきました。資金繰りの問題は、経営の仕組みそのものを変えないと根本的には解決しません。「売上より利益を重視する」という考え方を軸に、一緒に仕組みづくりを進めていきましょう。
まずは、お店の販促や顧客の動きを整理するところから始めたい方には、こちらをご覧ください。
また、毎月の経営支援や仲間と一緒に実践していきたい方には、会員制のサポートもご用意しています。初月のお試し体験からスタートできますので、まずは気軽にのぞいてみてください。
資金繰りの不安を抱えたまま毎日現場に立つのは、本当につらいことです。でも、仕組みを変えれば必ず状況は変わります。いつでもご相談ください。お待ちしております。